No.05147 24.02.11 月の夜

浅草寺に行くと「染め絵てぬぐいふじ屋」に寄りたくなる。
30年ほど前、はじめて連載をもたせてもらった月刊誌に、日本の伝統美についてのコーナーがあった。
「日本の美」と題されたその原稿もときどきまかせてもらった。
確か二度目くらいのインタビュー相手が、ふじ屋さんの初代川上桂司さんだった。
そこで知る江戸時代の手ぬぐいのデザインに魅了された。
以来、浅草に行くとお店を覗く。
行くたびに一本ずつ手拭いを買ってきた。
目鯨 https://www.instagram.com/p/CTuL0MihA0I/?img_index=2
いとし藤 https://www.instagram.com/p/CM6EhgWg8Gn/
京伝てぬぐい https://www.instagram.com/p/CTq_7PHlbqS/?img_index=1
など。
どれも江戸時代から伝わるデザインの手拭い。
今回も寄って一本買った。
それが「月の夜」。
お店でたなごころに載る程度の大きさにたたまれた手ぬぐいは、紺地に白い丸だけが見えていた。
それを見て「これは月だ」と直感した。
なぜ月だと思ったのか。
月にうっすらと雲がかかっていたのだ。
たたんだ手ぬぐいを開いていくと雲の正体がわかった。
細長い手ぬぐいには縦長に置いたとき、上に月、下は静かな水面で、そこに映しだされた月の明かりがゆらゆらと揺れていた。
その揺れが、たたんだときに月の裏側から透けて見え、それを雲だと思ったのだ。
なんと粋な。
あとで知るが、これはふじ屋さんの三代目川上正洋氏がデザインしたそうだ。
買わずに帰るわけにはいかなくなった。

月の夜
https://www.instagram.com/p/CUPpd_3Potz/?img_index=1